5年ほど前に母が病気になり、それから女将として毎週末東京から通うようになりました。高校卒業までこの上河津・湯ヶ野で育ちましたので出来るだけ家業を続けることが大事だと思っています。この福田家は明治十二年に創業し多くの文豪に愛されてまいりました。特に、『伊豆の踊子』の『私』こと、川端康成先生が当館に逗留された時の出来事がモデルになったことでも有名です。映画の撮影では美空ひばりさん、吉永小百合さん、山口百恵さんなど多くの大スターがご滞在されました。また当館の隣には日本で唯一の川端康成先生の生前お認めになった文学碑があり昭和40年11月12日の除幕式の時、私は大学生でしたが帰省し川端先生に花束を贈呈するお役をさせていただきました。今でもお泊りをいただいたお客様には当時を知ることができるよう、川端先生の書や原稿、映画の台本、写真や出演者のサインなどを出来るだけ館内に展示しております。また、「伊豆の踊子」の世界をご堪能いただけるよう、衣装をご用意いたしました。外国の方にもお召し頂けるよう、着丈の長いサイズもご用意しておりますので、是非記念撮影をお楽しみ願います。このほか館内には太宰治先生が「東京八景」を執筆したお部屋も当時のまま保存しており、ご希望の方にはお部屋をご見学いただけるほか、井伏鱒二先生、三好達治先生ら、錚錚たる日本文学界の重鎮たちの資料もご覧いただけます。